• 医療用ロボット
    近年,低侵襲な手術法としてお腹にひとつしか穴を開けない単孔式の腹腔鏡下手術が注目されています(左の写真は多孔式)。しかし,現在一般的に手術の現場で使用されている腹腔鏡や鉗子は,カメラでの観察やグリッパによる把持を目的とした1自由度の関節を,ひとつ有するものがほとんどです。そのため,内臓の裏側などの観察・処置が非常に困難です。

    1sこの問題を解決するために,先端に多自由度を有する医療用マニピュレータの研究開発が盛んに行われています。多自由度を実現する機構は「ワイヤ方式」が広く用いられており,その他の方式としては「傘歯車方式」や「リンク方式」などがあります。しかし,「ワイヤ方式」の場合,根元から各関節を介して先端までワイヤで接続されるため,各関節の独立駆動が困難です。また「傘歯車方式」の場合,各関節に用いた歯車にバックラッシュが発生してしまいます。そのため,関節を直列に接続すると誤差が累積して,先端の精度が悪化してしまうという問題が発生します。「リンク方式」も「ワイヤ方式」と同様に多関節にした場合,各関節の独立駆動が困難です。
     
    つまり,目的の医療用マニピュレータを実現するためには,バックラッシュが小さく,独立駆動が可能な関節機構が必要です。
     
    この研究テーマでは,小型化が可能であり,本研究室の独自技術である高精度な特性を有する立体カム機構や,同じく高精度な特性を有するクラウンギア減速機構の開発を行い,多自由度内視鏡用の小型高精度ロボットマニピュレータを実現することを目的としています。
     
    なお,立体カム機構やクラウン減速機構は,医療用に限らず広い応用分野を持つため,そのような視点も考慮に入れた開発を進めています。
  • 共存型人支援ロボット

    人と同じ生活空間の中で活動し,人の生活を支援するロボットを開発することがこの研究の目的です。

     

    i-pentar人の支援をするロボットでは,充実した機能もさることながら,人を傷つけない高い安全性が求められます。しかし,一般に安全性と機能性(たとえば重いものが持てる機能)は互いに相反する性質があります。

     

    ロボットには様々な危険部位がありますが,本研究では,特に腕の危険性を抑えることを意図しています。一般のロボットでは,荷物を持ち上げるために腕の力を使います。しかし,重い荷物を持ち上げることのできる腕は強力で重い物となってしまい,危険性が増大してしまいます。そこで,安全性を大きく損なうことなく重い荷物を持つことができるようなロボットを開発することがひとつの目標となります。

     

    人が重い荷物を持ち上げるときには,腕をまっすぐに伸ばし,体を傾けて持ち上げます。このやりかたをロボットで実現すれば,腕を非力で軽量にすることができます。この機能を効果的に実現するに,ロボット本体を傾けやすい2輪で倒立するような方式を採用しています。このようにすることで,本体重量35kg程度のロボットで10kg程度の荷物を余裕を持って持ちあげることが可能です。

  • 水中ロボット

    福島県には,磐梯朝日国立公園に指定されている猪苗代湖をはじめ多くの湖沼が存在し,そこでは様々な環境調査がおこなわれています。また,最近では2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質の観測もおこなわれています。しかし,複雑な地形や使用可能な船舶の大きさ等から,これらの調査に多機能で大型の機材を用いることは困難です。そのため,多くの場合は人間が小型の計測装置を携行して各地点を回り,多大な時間と労力をかけて調査をおこなっているのが現状です。特に放射性物質については,定期的かつ継続的な調査が重要であることから,計測にかかる手間は増加してしまいます。


    dsc00881s近年では,多くの研究者により,さまざまな環境調査のための水中ロボットが積極的に開発されています。これらの水中ロボットは機能や大きさは様々ですが,より多くの機能を搭載するほど大型化する傾向にあります。それに伴い,高い運用技術とコストが必要となり,専用の支援母船を必要とするなど,少人数での運用が困難になってしまいます。一方,搭載する機能を絞ることでロボットは小型化が可能になり,より多くのユーザーが容易に取得,運用することができるという利点が生まれます。しかし,搭載機器が限定されてしまうため1台ではユーザーの求める作業内容のごく一部にしか対応することができなくなってしまいます。

     

    これは,予め必要な機能を全てロボットに搭載しようとすることから生じるもので,調査の現場で容易に機能の取捨選択ができれば,小型のロボットで必要な機能を機動的に搭載することができます。しかし,猪苗代湖でも最深々度が約100mあり,10気圧もの高圧がかかるため,ロボットの気密性を保持しつつ,ロボットの非専門家がその場で搭載機能の交換をすることは容易ではありません。

     

    この課題を解決する手段として考えられるのは,ロボットを小さな機能モジュールの集合として構成し,それぞれをワイヤレスで接続することです。これにより,現場で気密性を損なう可能性があるような分解作業を排除できます。ワイヤレス接続を行うためには,水の汚濁などの影響を受け難い電波が適していると考えられますが,一般に,水中では電波は著しく減衰してしまうため,通信は困難といわれてきました。しかし調査してみると,淡水中で10数cm程度であれば,小型の通信モジュールを利用して十分に高速通信が可能であることがわかりました。

     

    本研究では,主に湖沼の環境調査を目的としたモジュール構造型小型水中ロボットの開発を目指しています。また,開発する水中ロボットが,生物の観察などを含めた環境調査を目的としていることから,ロボットから発せられる雑音を低減することも非常に重要であると考えられます。これらの視点を入れた研究開発を行っています。

  • 人間計測・福祉ロボット

    ロボット技術は,近年大きく進化してきています。特に,コンピュータの高速化による情報処理能力の飛躍的な向上は,自然言語処理や大量のデータベース処理なども,ロボットに搭載可能な規模のコンピュータでかなりのレベルでの実行を可能としました。一方で,まだ発展途上の技術も多く,鉄腕アトムのようなロボットを実現することは,現在の技術レベルでは極めて困難です。例えば,人は自分の脚を使ってかなりの高さまで跳躍することができます。しかし,ロボットでそれを実現するためには,バネ等のエネルギを蓄積できる機械要素を併用するなどしない限り,電気モータ等のアクチュエータだけでそのような高さまで跳躍することは不可能です。つまり,人間の筋肉は極めて優秀な動力発生デバイスであるということを意味しています。このことは,言い換えると,人間をシステムの一部として組み込むことで,通常では実現できないようなロボットを実現できる可能性があることを意味します。たとえば,筋肉は外部から電気刺激を与えることで,ある程度コントロールすることができます。これは機能的電気刺激(Functional Electrical Stimulation; FES)とよばれる技術であり,これを利用して麻痺した脚で自転車を漕いだり,あるいは脳梗塞などで動かなくなった手を動かしたりすることができるようになります。

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     また,ロボット研究が,人間や動物そのものの研究につながる場合もあります。たとえば,短距離陸上選手が最も速く走るためにはどのようにすればよいか検討を進めていくと,外部からのエネルギー補給を行わずに歩行(走行)を続けることのできる受動歩行ロボットの研究につながっていきます。つまり最もエネルギー(労力)を使わずに走ることが最速の走法である可能性があるということです。

     

    さらに,ロボット技術を使うことで義手や義足の機能を大きく向上させることができます。ここで重要となるのは,装着者の意思を的確に理解して動作することのできる能力です。このような機能を実現するためには,筋電図(Electromyography; EMG)を使って残存している筋を動かして行うことが一般的ですが,筋電図では発生力の大きさを正確に計測できないなどの課題があります。そこで,筋電図の代わりに,筋の力発生に伴って生じる筋の硬度変化を利用したインタフェースの開発を進めています。

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