医療用ロボット

低バックラッシュ小型減速機構(クラウン減速機)

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         減速機の概要図               各種構成要素の図: すべて同軸、中空構造も可能

原理

 この機構は歯数が1 枚異なるクラウンギヤ2つと出力軸,弾性変形ディスク,そしてプレスロータから構成される.ロータはN 枚の歯を有し,フレキシブルカップリングのように弾性変形するディスク(以下弾性ディスク) を介して出力軸と結合されている.ステータはNs 枚の歯を有し,ハウジングに固定されている.ここで,Ns とN の差は1 である.プレスロータでロータをステータへ押し付けると,ロータとステータの歯の枚数が1 枚異なるため,ロータは図1 のように片側に傾いて噛み合う.そのままプレスロータを入力軸周りに回転させると噛み合う位置が変化し,出力軸が回転する.減速比はN/(N-Ns)となる.なお,N-Nsは±1であるので,減速比は±Nとなる.すなわち,ロータの歯数が減速比となり,同じ歯数あたりのハーモニックドライブの2 倍の減速比を実現できる.また,ステータとロータの歯数の大小で出力の回転方向を選択できる.例えば,図ではN = 50,Ns = 49 であることから,減速比は50 となり,出力軸と入力軸の回転方向は同じである.一方,Ns = 51 の場合は逆回転となる.

 

特徴

 二つの歯車の噛み合わせを数値計算で求めると,最も深く押し付けている歯や浮き上がっている歯ではロータとステータは接触せず,傾倒している中心となる線(以下,傾倒中心線)を対称に 約±90deg 離れた2ヶ所で接触しているという結果が得られている.また,この2ヶ所でロータとステータのバックラッシを取り除くことができる接触状態となっている.提案している減速機のように歯車を傾斜させた機構はすでに多数提案されているが,本機構のような傾倒中心線を挟んで対称に2ヶ所で接触させてバックラッシを取り除くというものはない.この接触方法の新規性が認められ,2010年に特許登録された(特許4511635号).また,出力軸側からトルクを加えて入力軸側を回転する,いわゆるバックドライブが可能である.そして右図 に示すように,組み合わせる直前の機構要素は同軸に存在することから,設計,製作,組み立てが容易である.

 

展望

 機構がコンパクトであるという特徴から医療技術に有用であると考えている.また,従来のものと比較して安価に製作できる可能性があることから,工作機械や小型ロボットなどへの応用も同時に進行中である.さらに,同時にかみ合う歯数を多数にする研究も進行中である.これが実現すれば,強度,剛性,寿命で優れた減速機を実現できると思われる.

 

発表文献