人間計測・福祉ロボット

GPS搬送波位相測位を用いたアスリートのピッチ・ストライド高精度計測

研究背景

近年,様々なスポーツにおいて科学的な解析が行われ,競技力を向上させる一助となっている。陸上競技の分野でも競技力の向上を目的とした科学的なアプローチが盛んに行われ,その有用性が認められている。しかし,近年のスポーツ科学の発展とは対照的に,陸上競技の現場における指導法は,未だ指導者の経験や技量,感性に依存している。また,これまでのスポーツ科学は指導者の指導法とは独立した科学的な仮定に基づいた検討がほとんどであり,指導法の科学的根拠について詳細に検討した例は極めて少ないといった現状である。


本研究では競技者の身体動作を精密に計測し,個々人の特性の把握をすること,また,それを基に指導者の指導法や指導のノウハウの科学的解明を行うことを目標としている。本研究では,特にピッチ・ストライドに着目し,それらの変化を実際の陸上トラック上で精密に計測できる方法の開発を行う。


従来,競技者のピッチ・ストライドを陸上トラックで計測する場合には,カメラを用いて競技者の走行動作を撮影し,得られた動画像から画像処理を用いて計測する方法や,レーザー測定器を用いる方法などが提案されている。しかしこれらの方法は,装置が大型化し一般的に高価であることや,直線のような限定的な部分での計測しかできないなどの課題があった。

 

そこで本研究では,GPS 搬送波位相測位と加速度センサを組み合わせた計測システムを提案する。

 

attach2目標性能と計測方法

計測対象となる陸上競技者は,走行ピッチ[4step/s],ストライド2.5[m] で100 m を10 秒で走行すると仮定し,1/100 秒を競うハイレベルな選手の計測を想定する。このとき,競技者は1秒あたり10[m] 移動することになる。それを1/100 秒オーダーでの変化を確認するためには10[m]×1/100 となるので,ストライドの計測は,0.1[m] 以下の精度で行う必要がある。

 

GPSモジュール,足の接地を検出するための加速度センサ,データロギング用SDカードモジュール,バッテリなどを搭載した計測装置を,競技者の腰部右側にとりつける。また,GPS用のアンテナは,衛星捕捉数を増やすために,競技者の頭部に装着する。

 

脚の接地は,加速度センサにより腰部前後方向加速度の変化を計測することにより,計測する。これは,多くの競技者のデータを分析した結果,最も確実に脚の接地を検出できるのは,接地時の制動に起因する前後方向加速度の負方向ピークであったためである。

 

計測システムの概要

 試作した計測システムのブロック図を以下に示す。GPSモジュールには,Crecent OEMモジュール(Hemisphere社製)を用いた。同モジュールから出力される位置データは,1秒間に10回更新されるようにセットした。また,加速度センサの計測データは,位置データと同期をとるために,GPSモジュールから出力される時刻データを一緒に記録した。加速度データと位置データは,マイクロ秒オーダで同期することができている。位置データ,加速度データ,時刻データは計測装置内のSDカードに一旦記録され,計測終了後にPCにてデータ処理を行う。GPSモジュールでの測位法としては,搬送波位相測位法(RTK法)を選択した。試作した計測装置を右の写真に示す。アンテナを含めた全重量で191[g]となっている。

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 装置の性能評価

vlcsnap-2012-02-14-19h32m05s8sこの装置の性能を検証するため,3次元モーションキャプチャシステム(MAC3D System,Motion Analysis社製)で計測したデータと比較した。被験者は本学陸上競技部の短距離走者であり,大会等での出場経験も豊富な十分に訓練された競技者である。助走後の定常走行になったところで計測を行った。モーションキャプチャシステムの計測範囲がおよそ8[m]であるため,3歩分のデータで比較した。結果を以下の表に示す。

 

step

 

 この結果から,競技者のストライドが約30[mm]以下の精度で計測できていることがわかる。また,ピッチは約3.96[step/s]であった。

 

今後の課題

実際に本計測装置計測できる位置データは,アンテナを装着している頭部の位置である。したがって,競技者の上体の姿勢が変化すると,位置データに誤差が生じてしまう。しかし,十分に訓練された競技者の上体は,定常走行においては極めて安定しており,上記の性能評価でも明らかなように十分に高精度な計測が可能である。一方,競技者がスタートから定常走行に移るまでの間には,上体姿勢が大きく変化する期間がある。これに対処することが今後の課題である。

 

成果発表

  • 長嶋拓哉,高橋隆行, GPS 搬送波位相測位を用いた計測システムによる 短距離走者のピッチ・ストライド精密計測, 日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会'12, 2A2-A02(CDROM), 2012.5.
  • 長嶋拓哉,高橋隆行, GPS搬送波位相測位を用いた陸上競技者ピッチ・ストライド計測システムの開発とそれを用いた陸上競技者計測, 日本機械学会 スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス2011, 11-17, pp.84-89, 2011.10.
  • 長嶋 拓哉,高橋 隆行, GPS搬送波位相測位を用いた陸上競技者ピッチ・ストライド計測システムの開発, 第29回日本ロボット学会学術講演会, 1N2-3(CDROM), 2011.9.
  • 長嶋拓哉・高橋隆行, GPS搬送波位相測位を用いた陸上競技者位置計測システムの開発, 計測自動制御学会 東北支部 第262回研究集会, no.262-4, 2010.12.
  • 長嶋拓哉・高橋隆行, 陸上競技者位置計測におけるGPSの可能性, 日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会'10, 1A2-G11(CDROM), 2010.6.
  • 長嶋拓哉・高橋隆行, GPSを用いた陸上競技者リアルタイム計測システムの開発, 計測自動制御学会 東北支部 第253回研究集会, no.253-7, 2009.11.

 

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